無議決権優先株の上場の動き
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2008年5月9日の日経新聞によると、ソフトバンクは議決権がない代わりに普通株より配当の多い種類株(無議決権優先株)の発行、上場に向けて定款変更などの準備に入ると正式に発表したということです。また、ゼンリンも同様の発表をしており、その他にも年内に10社程度が追随するようです。
無議決権優先株の上場は昨年の2007年9月3日に伊藤園が行っており、今回の上場が行われると2回目ということになります。
今年4月25日の日経新聞によると東京証券取引所は7月にも無議決権株の上場についての指針を明らかにするとのことでしたので、今回の各社の動きはこの発表を受けてのことと思われます。

ところで、普通株式以外に種類株式を発行する会社を「種類株式発行会社」と会社法は定義しています。呼び名は別として、その制度自体は明治32年の商法制定当時からありました。ただ、種類株式の内容を自由に定めることが出来なかったなどの制約があり、上場会社、非上場会社を問わず、あまり利用されて来ませんでした。
しかし、徐々に種類株式の内容の自由化が進み、会社法では様々なタイプの種類株式が発行できるようになりました。
(ただし、複数議決権を有する種類株式については特別な考慮が必要であることは、以前に紹介しています。→当職執筆の法律情報「複数議決権株式について」をご参照ください。)
種類株式の内容は定款で決めなければなりません。

また、種類株式は、非上場会社だけでなく、上場会社も発行できました。ただ、上場申請に係る株式は単一銘柄で、かつ、発行済株式数と同数であることが原則でしたので、種類株式の上場は例外的なものでした。例外的に種類株式の上場が認められた例としては、ソニー、さくら銀行(現三井住友銀行)があるようです(いずれもすでに上場廃止になっています)。
その後、種類株式の上場への関心が高まり、伊藤園の無議決権優先株の上場を皮切りに今回の動きになってきました。伊藤園の例と同様、ソフトバンクも既存の普通株主に対して一定割合の無議決権優先株を無償で発行するようです。ただ、伊藤園では無議決権優先株の配当を普通株の3割増しとしているのに対して、ソフトバンクは2倍から5倍に設定するようです。
このような既存の株主への利益の還元というだけでなく、無議決権優先株の上場が認められると、会社は、買収防衛を気にすることなく市場から資金を得ることができるようになります。
また、株式交換や合併等のM&Aを行う場合、完全子会社となる会社や吸収される会社の株主に対して無議決権優先株を割り当てることにより、従来の株主のみによる株主総会を維持しながらM&Aを行うことができるようになります。

東京証券取引所は、無議決権優先株式の乱用的な上場を防ぐために、一定の条件を満たした場合や一定の期間を経た場合には議決権を与えるなどの保護策整備を上場の条件とするようです。伊藤園の無議決権優先株については、合併やTOBによる支配株主の変更、上場廃止の場合には無議決権優先株と普通株式とを交換することとしています。また、普通株式が無配であっても予め定められた配当をすることとし、それができない場合には将来に配当するべく累積していくことになっています。
なお、伊藤園、ソフトバンクの例はすでに上場している会社が無議決権優先株を上場するものですが、東京証券取引所は非上場会社が無議決権優先株のみを上場することも認めるようにするとのことであり、そうするとベンチャー企業が他者からの口出しに悩まされることなく開発費等を市場から集めることも可能になります。また、業績のいい会社が買収防衛や経営の自由度を維持しながら市場から資金を集めることも可能になります。