<ポイント>
◆迷惑行為の中止を求める訴訟には集会の決議が必要
◆厳格な要件の下、部屋の使用禁止等を求めることもできる
医療施設や商業施設が近くにあるという利便性を重視して、都市部の分譲マンションが売れていると聞きます。もっとも一部のマンションでは居住者の迷惑行為により他の居住者の平穏な生活が乱されるという例があるようです。
中には、深夜に楽器で大騒音を鳴らす、ベランダで大量の鳩に餌付けをして騒音を発生させたり羽毛を散乱させたりする、というように、多くの近隣住民にとって迷惑となるものがあります。
このような迷惑行為に対しては、まず管理会社が管理委託契約(例えばマンション標準管理委託契約書を基に結ばれた契約)に従い、迷惑行為を行っている居住者(区分所有者や賃借人など)に対してその行為の中止を求めていくことになります。
しかし、それでも迷惑行為が中止されない場合、管理委託契約上、管理会社は責任を免れますので、以後は管理組合が対処しなければなりません。
例えば、ある居住者がベランダで野鳩に餌付けして騒音を発生させたり羽毛を散乱させたりすることは、共同生活の秩序を乱すといえますので、マンション標準管理規約またはこれに準じた規約が定められているマンションでは、理事長は、理事会の決議を経て、その居住者に対してやめるよう勧告・指示・警告を行うことができます。
理事長が勧告等を行えば解決されることが多いと考えられますが、それでもなお居住者がベランダで野鳩に餌付けすることをやめようとしない場合、裁判所に民事訴訟を起こす必要が出てきます。
裁判所に民事訴訟を起こすための手続については、マンション標準管理規約(単棟型)をみると、区分所有者等が規約・使用細則に違反した場合、理事長は、理事会の決議を経て、行為の中止を求めて民事訴訟を起こせると定められています。
この文言からは、規約または使用細則によってベランダで野鳩に餌付けすることが明確に禁止されているならば、規約上は、理事会の決議を経さえすれば集会(標準管理規約では総会)の決議がなくても理事長は管理組合を代表して民事訴訟を起こせるといえそうです。
他方、区分所有法では、規約・使用細則違反とは別に、「区分所有者の共同の利益に反する行為」の中止に関する条文があり、その中止を求めて民事訴訟を起こすには、集会の決議が必要とされています。この「区分所有者の共同の利益に反する行為」は、建物の一部を損壊する、猛獣を飼うなど、違法性の程度が強いものを含む一方、規約・使用細則違反の行為の中には、マンションによっては例えばベランダで洗濯物を干すなど、それほど違法性の程度が強くないものもあります。
そうすると、理事長が規約・使用細則違反の行為の中止を求めて民事訴訟を起こすには理事会の決議で足りるとすると、より違法性の強い(つまり中止の必要性・緊急性の強い)「区分所有者の共同の利益に反する行為」の中止を求めて民事訴訟を起こすにはわざわざ集会の決議が必要であることとバランスを欠くことになります。
したがって、ベランダでの野鳩への餌付けが規約または使用細則で禁止されているとしても、その行為の中止を求めて民事訴訟を起こすには、集会の決議が必要と考えます。
なお、迷惑行為を行っている居住者が区分所有者であるならば、区分所有法上、その者に対し、民事訴訟を起こして、部屋の使用を相当期間禁止することを求めたり、部屋の競売を求めたりすることもできます。
また、迷惑行為を行っている居住者が賃借人であるならば、区分所有法上、その者に対し、民事訴訟を起こして、賃貸借契約を解除してその部屋を引渡すよう求めることができます。
ただし、いずれの場合も、他の区分所有者の「共同生活上の障害が著しく」、その迷惑行為を止めさせるなどするだけでは、その「障害を除去することが困難」な場合に限られます。
迷惑行為を中止すること、部屋の使用を相当期間禁止すること、部屋を競売すること、賃貸借契約を解除して部屋の引渡を求めることの、いずれの手段をとることができるかは、ケースバイケースですので、見通しを判断するには弁護士に相談するとよいと思います。