住友信託銀行がUFJホールディングスと三菱東京フィナンシャル・グループとの信託銀行部門の経営統合交渉の差し止めの仮処分を求めた問題で、東京地裁の判断を覆して住友信託の請求を退けた東京高裁の決定につき、最高裁は平成16年8月30日、住友信託銀行の抗告を棄却し、高裁の決定が確定しました。
ここでは、最高裁の判断理由について、東京地裁、東京高裁の判断理由と比較しつつ、解説します。
最高裁は、住友信託とUFJとの基本合意書に盛り込まれた「独占交渉権」の条項について「最終的な合意を成立させるための手段として定めたもので、合意成立の可能性がなくなれば条項に基づく債務(UFJは第三者と交渉してはならない)も消滅する。」と判示しながら、現状では「合意成立の可能性がなくなったとまでは言えず、債務もまだ消滅していない。」としました。
住友信託の独占交渉権は、東京地裁がUFJと三菱東京との交渉差止めを認めた仮処分決定がよってたつところでした。つまり、住友信託とUFJとの基本合意には法的拘束力があり、UFJが三菱東京と経営統合の交渉を進めれば、住友信託のUFJに対する独占交渉権が侵害される(「被保全権利」が存在する)、なおかつ、それによって「住友信託に著しい損害や差し迫る危険が生じる(「仮処分の必要性」がある)ことは明らか」と判断しました。
これに対して、東京高裁は、独占交渉権につき、「法的拘束力はあるものの、UFJによる交渉の白紙撤回によって住友信託との信頼関係が破壊された以上は、その効力を失った」とし、UFJと三菱東京との交渉を差し止めることによって保全されるべき権利自体が最早存在しなくなっており、したがって、仮処分の要件(被保全権利の存在)を欠くと判断しました。
最高裁は独占交渉権に関する基本合意には法的拘束力があることを前提にして、その権利はまだ消滅していないとしています。
その上で、最高裁は仮処分のもう一つの要件「仮処分の必要性」を欠く、つまり、「仮処分命令で交渉を差し止めなければ住友信託に著しい損害が生じるとは言えない」として、結論的には東京高裁の判断を支持しました。
その理由は、(1)条項違反による住友信託の損害は、事後の損害賠償で償えないほどではない、(2)UFJが三菱東京との交渉を一旦中断して、住友信託との交渉を始めたとしても、今後、住友信託との間で最終合意が成立する可能性は相当低い、(3)差し止めを認めた場合のUFJ側の損害は相当大きい、という点です。
(1)が理由とされるのは、仮処分という制度の存在理由によるものです。つまり、仮処分は、本訴訟での決着を待っていたのでは償えない程度の損害が生じるのを避けるための制度ですので、たとえ独占交渉権の侵害によって住友信託に損害が生じるとしても、これを事後的に賠償によって償えるのであれば、仮処分を認めるには足りない、という意味です。
(3)の理由は、仮処分の緊急性、暫定性によるものです。つまり、仮処分は緊急に暫定的な判断をするものですから、本訴訟での証明よりも緩やかな「疎明」によって裁判所が判断します。したがって、仮処分の決定は理論的には本訴訟によって覆される可能性があるため、仮処分によって却ってUFJが被る不利益の方が相当大きいということであれば、やはり仮処分の必要性はないということになります。
(2)については常識的にはそのとおりとも考えられますが、住友信託側の条件提示如何によっては「交渉してみなければ分からない」と言えなくもないかも知れません。
さらに最高裁は住友信託の損害についても付言しています。それは「最終合意が成立した場合に得られるはずの利益相当ではなく、合意成立への期待の侵害による損害とみるべき」と示しており、今後の住友信託の損害賠償請求訴訟の可能性を指摘しつつ、その際の損害については限定的なものとみるとの判断を示しています。
住友信託は既に、損害賠償請求訴訟を提起すべく検討を始めたとされていますが、損害額を巡っては法律的にも判断の難しい問題が含まれているというべきでしょう。
最高裁が住友信託の抗告棄却
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