【未完成マンションに関する説明義務】
モデルルームで「二条城の眺望が広がる」と説明され購入を申し込んだ京都市内の新築マンションが、実際は隣接ビルに眺望が遮られていたとして、買主が不動産業者らに損害賠償を求め、大阪高裁が業者側の虚偽説明を認定し約560万円の支払いを命じた訴訟で、最高裁は10月30日までに業者側の上告を受理しない決定をしました(日本経済新聞平成12年10月30日夕刊)。
大阪高裁は「未完成のマンションで、売主は実物を見聞できたのと同程度までに説明する義務があり、状況が一致しなければ売買契約を解除できる」としていました。
【マンション購入後に建物が建てられた場合】
上の場合とは事案を異にしますが、マンション購入後に隣地に建物が建てられた場合に、眺望や日照が害されたとして、業者の損害賠償責任が問題になった事件も多数存在します。
つまり、業者がマンションを販売する際に、顧客に対してマンションの眺望・日照などについて説明する義務があったにもかかわらず、業者がこれらの説明を怠ったとして顧客が業者の責任を追及するということです。
ただ、従来、実際にはこの点に関して業者の責任が認定されることは希であり、顧客の請求が認められたものはわずかであったようです。
例えば、リゾートマンションの6階の1室を買い受け後、隣りに別のリゾートマンションが建築されたため、北アルプスの眺望が半分以上害されるに至ったという事案で、東京地裁平成5年11月29日判決は、I眺望を保証する特約はなかった、II業者は隣地の建築計画を知らなかった、かつ、知らないことにつき重過失がなかったとして、買主の請求を認めませんでした。
【業者の損害賠償責任が認められた事例】
他方で、業者の損害賠償責任が認められた事例もあります。
類似の事案において、眺望の良さが大きなセールスポイントであったこと、販売価格を設定するに際しても眺望の良さが判断要素となっていたこと、顧客も隣地にマンションが建築される可能性がないことを信頼して購入したこと、業者も顧客がそのような信頼を抱いて購入したことを十分に伺い知ることができたことからすると、顧客の信頼は法律的な保護に値するものであるにもかかわらず、その業者自らが隣地に眺望を害する形でマンションを建築したことが不法行為にあたり、業者の損害賠償責任を認めた事例(横浜地裁平成8年2月16日判決)があります。ただ、業者自ら隣地に建築したという点がこの事案の特殊な点であるといえます。
【日照・通風に関する判例】
東京地裁平成11年9月8日判決で、この点の業者の責任が認められています。
業者は不動産売買に関する専門的知識を有し、他方顧客はそのような知識を有しない一般消費者であるから、業者は顧客に対し、マンションの日照・通風に関し正確な情報を提供する義務があり、業者は隣地にマンションが建築されて日照・通風が害される可能性があることを予想できたにもかかわらず、営業社員への周知徹底がなされていなかった、かえって、営業社員は隣地にはしばらくは何も建たないなどと説明していたという事案で、業者の責任を認め、手付金の半額を返還させる判断がされました。
【まとめ】
マンション一室の売買契約の場合、売主の義務は、主として居室そのものを完全な形で売ることにあり、この義務を果たせば、基本的に売主の責任を果たしたと言えます。
これに対して、眺望や日照などについて事前に十分な説明をしておくというのは、契約における付随的な義務であるといえます。
しかし、付随的であるとはいっても、この点が不十分であれば、売主が損害賠償責任を負う場合もあります。
前述の大阪高裁、および業者の上告を受理しなかった最高裁の判断は、売主の説明義務をより程度の高いところまで求めるものとして、マンションの販売方法に影響を及ぼすものと見られます。